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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

新太郎君と真美ちゃん劇場

                    ≪十一月二日≫   ―邇―


三時間ほど、ペンを走らせた後、和智さん一家が宿泊している「TEMPI」ホテ

ルに顔を出す事にした。

ノックした後部屋のドアを開けると、家族全員揃っている。

和智さんは、ベッドの上で、旅行記のノートの整理中。

玲子ちゃんはまだ来ていないようだ。

長女の真美ちゃんは、自分で遊んでいるから良いのだけど、長男の新太郎君

は、急に泣き出したりして、奥さんを困らせていると言う。

今は、機嫌がいいのか、ベッドの周りではしゃいでいる。

         俺「こんにちわ」

      和智さん「やあ!ごらんの通りさ。」

         俺「お邪魔します。」

      和智さん「子供連れも良いけど、言葉を話せるようになってか

          らでないと、家族での海外旅行は無理だな。」

子供達がはしゃいでいるのを見ながら、実はニコニコしながら見ている。

       奥さん「見せてもらって良いかしら?」

俺が持っている、分厚いノートを見て、奥さんが声をかけてきた。

         俺「ええッ?!!」

       奥さん「ノートよ!それとも、差しさわりがあるかしら?」

奥さんは、細身で背が高い。

俺とそれ程、年齢はかわらないと思うのだが、日本で行なわれた第二回ヒッ

チハイク競技大会に参加したときの、女神のような爽やかさが印象にあるも

のだから、一瞬どぎまぎしてしまった。

         俺「いや、別に・・・・ないですけど。まだ、アフガニ

          スタン編しか書いてませんけど、かまいませんか?」

まだ12ページぐらいしか書いていないノートを渡した。

       奥さん「・・・・・・・・・・・・。」

      和智さん「感想は・・・・・?」

       奥さん「あなたのとは全然違うわね!まるっきり正反対かし

          ら!」

      和智さん「・・・・・・・・・。」

       奥さん「日記をつけていた事はあるんですの?」

         俺「?????すこしは・・・・・。」

       奥さん「これ、全部思い出しながら書くの?」

         俺「そうですね・・・・。走り書きしたメモがあります

          ので、それを見ながら、いろいろ思い出してはノート

          を埋めているんですが、なかなか書くということに慣

          れていませんので、はっきり言って難しいですね。」

       奥さん「何でもそうですけど、旅行記を読んで参考にされる

          と良いんじゃあないですか。書いてれば、良くなりま

          すよ、きっと!」

                  *

子供達を相手に、時間を過ごし・・・・ていると、和智さんが荷物の整理を

始めた。

オムツにミルクと、子供達のものを整理する。

家族で旅するって・・・・大変だ。

午後6時になっても、玲子ちゃんは現れなかった。

子供達の世話をさせられと思って、寄り付かないと奥さんは嘆いている?

玲子ちゃんは玲子ちゃんで、数少ない日数を、出来るだけエンジョイしたい

と走り回っているのかも知れない。

時間も時間なので、和智さん家族と”最後の晩餐会”と出かけることになっ

た。


子供達と夜のアテネを歩く。

ギリシャ人たちは、子供が好きなのか、日本人の子供が珍しいのか、必ず振

り返りニッコリと微笑んでくる。

ひどいのになると、親を無視して子供に近寄り、頭をなでたりキスをしたり

する人まで現れて、戸惑ってしまう事もしばしばだ。

真美ちゃんも、ニコニコしながら、キラキラと輝くショーウインドーを見て

は「あれ!」と指差して俺のほうを見る。

他人だけど、可愛い子供を連れて、外国の街を歩けるなんて最高。

もう人生で二度とないかもしれない感激に浸っている。


モナスティラキ駅前の「タベルナ」で夕食を取った後、ホテルに戻って荷物

を持ち、日航オフィスに向って歩き出す。

もう出発の時が来た。

EastAirportへのバスは、すべてこの日航オフィスから、20分置き位に出てい

るらしい。

和智さんが、荷物のほとんどを受け持ち、奥さんが新太郎君を抱っこして、

真美ちゃんは俺が受け持った。

本当に、他人の子供って可愛いものだ。

間違ってはいけません、他人の子供です。

ホテルから日航オフィスまでの間、十分に親子の気持を味合わせていただき

ました。

夕食の時、真美ちゃんがパパのビールをちょこっと飲まされて、「パパ、天

井が回っている」と言って、倒れてしまった・・・・なんとも可愛い子なの

だ。

和智さん「空港の名前を聞いてくるから、先に行っててくれ!」

そういうと、反対の方向に歩き出したので、それからは新太郎君を抱っこし

ている奥さんと、真美ちゃんの手を引いている俺の四人で、家族の気分で歩

くことが出来た。

奥さんはそんな気持はこれっぽっちもなかったかも知れないが、俺は本当に

感激しながら歩いていた、至福の時間だったのだ。

アテネの人たちも、そういう目で俺達を見ていてくれたに違いない。

そう思うと、俺だけがにやけていたに違いない。

奥さんと家族を持った気分にさせてもらった一瞬でした。

あのヒッチハイク連盟の女神と・・・・・。

                *

日航オフィス前には、「EAST AIR ターミナル」と書かれた黄色いバスが停

まっていた。

しばらくすると、和智さんが姿を見せた。

小平君と玲子ちゃんはまだ現れない。

待ち合わせの午後8時には、まだ10分ほどあった。

新太郎君はママの手を離れて、一人でヨチヨチ歩き回っている。

転ぶと、誰かが抱き起こしてくれると思っているのか、しばらくそのままジ

ッとしているのだが、誰も起こしに来てくれないとわかると、自分でムクッ

と立ち上がりまた、ヨチヨチと歩き出すのだ。

奥さんはそれがわかっているのか、新太郎君が転んでも手出しはしない。

地元の人たちが多数立ち止まっては、この可愛い天使に対して笑顔を投げか

けてくる。

ヨチヨチ歩いていく先に、地元のご婦人が両手を広げて待っていると、すぐ

近くまで歩いていっては、まるでそれが障害物でもあるかのように、クルッ

と向きを変えてUターンするしぐさに、周りの人たちから歓声が上がるのだ。

そんな子供達を和智さんと奥さんはただ笑って見ている。

新太郎君のパフォーマンスを、まるで劇場で見ているようだ。

焼き栗を買って、真美ちゃんに一粒与えると、美味しそうに食べたかと思う

とまた手を出してくる。

新太郎君も寄っていた。

アテネ名産の焼き栗の匂いが、冷たい夜風に運ばれていったのか

も・・・・。

冷たい夜風に、暖かい焼き栗が余程美味しかったのか、どんどん口に運ぶ真

美ちゃんと新太郎君。

心配になってきた。

        俺「大丈夫かな?」

と、奥さんに聞いた。

      奥さん「大丈夫でしょ!」

とうとう、一袋全部平らげてしまった。

そこで、和智さんがまた焼き栗を買ってきた。

それを見ていたギリシャの人たちも、焼き栗を買ってきて、子供達の気を引

こうとしだすではないか。

冷たい夜空に、笑いが広がっていった。

ギリシャに、すばらしい家族と一緒にいる。

こんな一瞬を過ごさせてもらった和智さん家族に乾杯といこうではないか。


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